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静岡地方裁判所富士支部 昭和60年(ワ)116号 判決 1988年6月04日

甲事件原告(乙事件被告)

佐藤芳夫

右訴訟代理人弁護士

渡辺正臣

甲事件被告(乙事件原告)

日原博

甲事件被告

株式会社中部相互銀行

右代表者代表取締役

木村太郎

右両名訴訟代理人弁護士

松崎勝一

石井正行

竹谷智行

乙事件被告

佐藤勝幸

右訴訟代理人弁護士

渡辺正臣

主文

一  甲事件原告(乙事件被告)佐藤芳夫の請求をいずれも棄却する。

二  乙事件被告(甲事件原告)佐藤芳夫及び同佐藤勝幸は、乙事件原告(甲事件被告)日原博に対し、別紙物件目録(四)記載の建物から退去して同目録(一)ないし(三)記載の土地を明け渡せ。

三  訴訟費用は、甲乙両事件を通じ、全部甲事件原告(乙事件被告)佐藤芳夫及び乙事件被告佐藤勝幸の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

(甲事件)

一  請求の趣旨

1 被告(乙事件原告)日原博(以下「被告日原」という。)は原告(乙事件被告)佐藤芳夫(以下「原告佐藤」という。)に対し、別紙物件目録(一)ないし(四)記載の土地建物(以下「本件土地建物」という。)についての静岡地方法務局富士宮出張所昭和五五年四月三日受付第五五五六号所有権移転登記(以下「本件所有権移転登記」という。)の抹消登記手続をせよ。

2 被告株式会社中部相互銀行(以下「被告銀行」という。)は原告佐藤に対し、本件土地建物についての静岡地方法務局富士宮出張所昭和五五年一二月一七日受付第二〇八九三号根抵当権設定登記(以下「本件根抵当権設定登記(一)」という。)及び同出張所昭和五九年四月二日受付第五二七八号根抵当権設定登記(以下「本件根抵当権設定登記(二)」という。)の抹消登記手続をせよ。

3 訴訟費用は被告日原、被告銀行の負担とする。

との判決

二  請求の趣旨に対する答弁

1 主文第一項同旨

2 訴訟費用は原告佐藤の負担とする。

との判決

(乙事件)

一  請求の趣旨

1 主文第二項同旨

2 訴訟費用は原告佐藤及び被告佐藤勝幸(以下「被告勝幸」という。)の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 被告日原の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は被告日原の負担とする。

との判決

第二  当事者の主張

(甲事件)

一  請求の原因

1 原告佐藤は本件土地建物を所有している。

2 本件土地建物について、被告日原は昭和五五年三月二七日売買を原因とする本件所有権移転登記を、被告銀行は昭和五五年一二月一七日設定を原因とする本件根抵当権設定登記(一)及び昭和五九年三月三一日設定を原因とする本件根抵当権設定登記(二)をそれぞれ経由している。

3 よって、原告佐藤は被告らに対し、所有権に基づき、右各登記の抹消登記手続をなすことを求める。

二  請求の原因に対する認否

1 請求の原因1のうち本件土地建物が原告佐藤の所有であったことは認めるが、その余の事実は否認する。

2 同2の事実は認める。

三  抗弁

1 被告日原は、昭和五五年三月二六日、原告佐藤から、代金八〇〇〇万円、昭和五七年三月二六日までに右代金とこれに対する日歩五銭五厘の利息を支払うことにより買い戻すことができるとの買戻特約付で、本件土地建物を買い受けたものであり、その後、合意により、右買戻期限は当初昭和五八年三月二五日までに、次いで昭和五九年三月二五日までに延期されたが、原告佐藤は右最終買戻期限までに買戻をしなかった。したがって、被告日原は、右最終買戻期限の経過により、本件土地建物所有権を確定的に取得した。

2 被告銀行は、被告日原から、本件土地建物について、(一) 昭和五五年一二月七日、債務者日原観光開発株式会社(以下「日原観光」という。)のため、被担保債権の範囲を相互銀行取引による一切の債権、手形債権、小切手債権とする極度額一億円の根抵当権の設定を受け、本件根抵当権設定登記(一)を経由し、次いで、(二) 昭和五九年三月三一日、債務者日原観光のため、被担保債権の範囲を前同様とする極度額一億一〇〇〇万円の根抵当権の設定を受け、本件根抵当権設定登記(二)を経由した。

四  抗弁に対する認否

1 抗弁1の事実は否認する。

2 同2のうち本件根抵当権設定登記(一)、(二)の存在は認めるが、その余の事実は不知。

五  再抗弁

仮に被告ら主張の買戻特約付売買成立の事実が認められるとしても、右売買は通謀虚偽表示によるものであるから無効である。すなわち、原告佐藤は、昭和五五年三月二四日頃、被告日原との間において、弘信商事株式会社(以下「弘信商事」という。)から本件土地建物に担保権を設定して原告佐藤が金員を借り入れることを話し合った。しかし、被告日原は、原告佐藤に対し、弘信商事と原告佐藤とは取引もなく、原告佐藤には信用もないが、逆に被告日原は弘信商事と取引もあって信用もあるので、本件土地建物の所有名義を便宜被告日原名義にしたうえで同被告が本件土地建物の所有者であるかの如く仮装し、弘信商事から原告佐藤のため金員を借り入れてやる旨申し向け、その頃、原告佐藤はこれに同意し、右買戻特約付売買を成立させた。

六  再抗弁に対する認否

再抗弁事実は否認する。

(乙事件)

一  請求の原因

1 本件土地建物は原告佐藤の所有であった。

2 甲事件の抗弁1記載のとおり

3 原告佐藤及び被告勝幸は本件建物に居住して本件土地建物を占有している。

4 よって、被告日原は、原告佐藤及び被告勝幸に対し、所有権に基づき、本件建物から退去して本件土地の明渡をなすことを求める。

二  請求の原因に対する認否

1 請求の原因1の事実は認める。ただし、本件土地建物は現在も原告佐藤の所有である。

2 請求の原因2の事実は否認する。

3 同3の事実は認める。

三  抗弁

甲事件の再抗弁記載のとおり

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は否認する。

第三  証拠<省略>

理由

第一甲事件について

一本件土地建物が原告佐藤の所有であったこと、本件土地建物について被告日原が昭和五五年三月二七日売買を原因とする本件所有権移転登記を、被告銀行が昭和五五年一二月一七日設定を原因とする本件根抵当権設定登記(一)及び昭和五九年三月三一日設定を原因とする本件根抵当権設定登記(二)をそれぞれ経由していること、以上の事実はいずれも当事者間に争いがない。

二被告らは、被告日原が昭和五五年三月二六日、原告佐藤から本件土地建物を買戻特約付で買い受けた旨主張するので判断する。

<証拠>を総合すれば、次の事実が認められる。すなわち、

1  原告佐藤は、もと静岡県富士宮市議会議員の職にあったものであるが、昭和五〇年、建設資材等の販売を目的とするマルヨシ産業株式会社(代表取締役吉田常義。以下「マルヨシ産業」という。)を設立し、そのいわゆるオーナーとなり、同会社の経営を実質的に支配していたものであるが、昭和五五年三月中旬頃、同会社の資金繰りに窮し、同市で金融業等を営む松本幸治(以下「松本」という。)に対し、三〇〇〇万円の借入を申し入れたが拒絶されたため、その頃、もと富士宮市議会議員で、造園業を目的とする日原造園株式会社(商号変更により、現在は株式会社日原。以下「日原造園」という。)の会長の地位にあった被告日原に対して三〇〇〇万円の借入を申し入れ、これに対し、被告日原は、原告佐藤に対しては貸付をしないが信用のある被告日原に対してであれば貸付をしてもよいとの意思を表明していた松本から、額面金額三〇〇〇万円の同被告振出の約束手形を差し入れて現金三〇〇〇万円を借り受けたうえ、直ちに右現金三〇〇〇万円を原告佐藤に対し貸し渡し、原告佐藤は右借入金をマルヨシ産業の支払などに使用した。

2  原告佐藤は、右借入当時、マルヨシ産業の借入分を含め、富士宮市の金融業者である株式会社矢部商事(以下「矢部商事」という。)に対して五〇〇〇万円前後の債務を負担し、その債務を担保するため、本件土地建物を矢部商事名義に所有権移転登記したりして担保に提供していたものであるところ、前記借入後まもなく、右窮状を知った被告日原らとの話合により、被告日原が前同様に松本から五〇〇〇万円前後の金員を更に借り受けたうえ、これを原告佐藤に融通し、日歩二〇銭位の高金利の付いていた原告佐藤ないしマルヨシ産業の矢部商事に対する前記債務一切を返済する話合を進めるうち、昭和五五年三月二五日に至り、五一〇〇万円の支払を受ければ本件土地建物を原告所有名義に戻す旨の矢部商事の確約が得られたので、被告日原は、同月二七日頃、松本から、額面金額五〇〇〇万円の同被告振出の約束手形を差し入れて現金四九〇〇万円(ただし、天引利息一〇〇万円を含めれば、五〇〇〇万円)を借り受けたうえ、直ちに右現金四九〇〇万円を原告佐藤に対し貸し渡し、原告佐藤は、右借入金をもって、清算の結果判明した矢部商事に対する債務総額四九五一万九一七八円の返済に使用し(なお、右債務額との不足分は被告日原の妻日原茂子が立て替えた。)、同会社から、前に割引を依頼し満期が未だ到来していない商業手形の返還を受けたり、矢部商事名義の前記所有権移転登記等の抹消に必要な書類の交付を受け、同年四月一日、右移転登記等を一切抹消した。

3  以上のように、原告佐藤は、被告日原から二回にわたり合計七九〇〇万円を借り入れたものであるところ、その借入をした頃、マルヨシ産業振出の額面金額合計八三〇〇万円の約束手形三通に白地式裏書をして被告日原に交付し、被告日原は、支払呈示しないまま現にこれを所持している。

4  前記四九〇〇万円の貸付のなされたのと同日の昭和五五年三月二七日頃、原告佐藤と被告日原とは、原告佐藤が被告日原に対し、代金八〇〇〇万円、二か年内に右代金とこれに対する日歩五銭五厘の利息、契約締結に必要な費用を支払うことにより買い戻すことができるとの条件で本件土地建物を売り渡す旨を合意し、その内容の不動産売買契約書(乙第一号証)を作成し、被告日原は、その後、右合意に基づき、昭和五五年四月三日付をもって、本件土地建物について同年三月二七日売買を原因とする本件所有権移転登記を経由した(原告佐藤を権利者とする買戻の登記はなされなかった。)が、右合意に際し、原告佐藤と被告日原間において、本件土地建物の価額がどの位するかについての交渉がなされたことはなく、右合意における代金八〇〇〇万円は、被告日原が原告佐藤に貸し渡すために松本から借り受けたのが、天引利息一〇〇万円を含めて八〇〇〇万円で、原告佐藤に融通したのが右天引分を差し引いた七九〇〇万円であったことから決められたにすぎなく、右所有権移転登記手続費用は原告佐藤が支払った。また、原告佐藤は、前記三通の約束手形とは別に、右合意に関連し、代金八〇〇〇万円の領収証を作成し、被告日原に交付した。

5  本件土地建物は富士箱根国立公園内の白糸の滝付近に所在し、原告佐藤及び同人の息子である被告勝幸とその家族らが従来より本件建物に居住し、観光物産店「ふじ野屋」の営業が続けられていたものであり、被告日原において、原告佐藤に対する前記貸金債権の担保とすること以外に、特に本件土地建物の利用を必要としたことはなく、前記不動産売買契約書作成後も被告日原が本件土地建物の引渡を受けたことはなかった(原告佐藤及び被告勝幸が本件土地建物を占有していることは争いがない。)。

6  原告佐藤と被告日原間の前記合意で定められた買戻期間は、その後、右両名の合意により、二回にわたり、最終的に昭和五九年三月二五日までに延長された。

以上の事実が認められ、原告佐藤芳夫本人尋問の結果中、右認定に反する供述部分は前掲各証拠に照らしにわかに措信し難く、他に右認定を左右すべき証拠はない。

そうして、右認定事実によれば、原告佐藤と被告日原との間には、昭和五五年三月二七日頃、本件土地建物について前記認定の如き買戻特約付売買名目の合意が成立したものであるが、右に認定したように右合意における代金八〇〇〇万円の授受に関しては、原告佐藤の代金領収証が作成されたほかに原告佐藤から被告日原に対して額面合計八三〇〇万円の約束手形が差し入れられたうえ、被告日原のための本件所有権移転登記手続費用は原告佐藤が支払い、民法五八〇条二項により伸長することが許されないものとされている買戻期限が二回にわたり延長されていることなどにかんがみれば、右合意は、民法上の買戻特約付売買でないのはもとより、いわゆる売渡担保でもなく、前記合計七九〇〇万円の貸金債権を担保するため、二か年後を弁済期として本件土地建物の所有権を譲渡する趣旨の譲渡担保契約の合意であると認めるのが相当であり、右合意が虚偽表示によるものであるかどうかの判断を一時措けば、被告日原は、右合意により、本件土地建物について、譲渡担保権を取得したものであると認めることができる(ある合意が、売買であるか、譲渡担保であるかどうかの問題は、法律行為の法律的性質に関する事柄であるから、右のように認定しても弁論主義に反するものではないと解される。)。

三原告佐藤は、右譲渡担保契約は、通謀虚偽表示によるものであるから無効である旨主張する。

確かに、<証拠>によれば、被告日原が原告佐藤に対し前記二1認定の三〇〇〇万円を貸し渡した際には東京都内の金融業者である弘信商事の名前は話題に出なかったものの、その後、原告佐藤と被告日原との間において前記二2認定の四九〇〇万円の追加融資や譲渡担保契約の話合がなされた頃、被告日原において、同被告の知っている東京都内の金融業者である弘信商事から、矢部商事より低利で原告佐藤が八〇〇〇万円位の借入をすることができるように斡旋の労をとる意向を申し向けたことがあったこと、しかるところ、弘信商事からの借入が実現できたとしても貸付の実行までには一定の日数を要したうえ、借入にあたっては不動産の担保を提供することが必要であったのに前記二2認定のとおり本件土地建物はその当時矢部商事の所有名義になっていて担保に提供することができなかったことなどから、弘信商事からの借入が実現するまでのつなぎとして、被告日原が原告佐藤に対して前記三〇〇〇万円に続いて更に四九〇〇万円を追加融資したものであったこと、そのため、被告日原と原告佐藤間において右各貸金債権を担保する目的で本件土地建物について前記二認定の譲渡担保契約が締結され、被告日原は本件所有権移転登記を経由したものであるが、その後に原告佐藤が弘信商事から多額の金員を借り入れることができ、被告日原に対して右貸金債権の支払がなされれば、被告日原の譲渡担保権は消滅するに至ることが予期されていたものの、弘信商事からの貸付は実現しないでいることが認められるが、以上認定事実によっては、前記譲渡担保契約が、便宜上被告日原の所有名義になして、弘信商事から借入をするために通謀でなされた仮装のものであるとは直ちに認め難く、<証拠>によっては、右譲渡担保契約が虚偽表示による仮装のものであるとする原告本人の供述部分を裏付けるには足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

したがって、原告佐藤の前記主張は採用することができない。

それゆえ、被告日原の本件所有権移転登記は、売買を登記原因にするものであるが、譲渡担保は債権担保のために目的物の所有権を担保権者に移転するものであるので、登記原因のある有効なものというべきである。

四前記一の争いのない事実、<証拠>によれば、被告日原は、前記譲渡担保契約締結後まもなく、前記認定のように二回にわたり延長された最終弁済期である昭和五九年三月二五日より前の昭和五五年一二月一七日、被告銀行に対し、本件土地建物について、債務者日原観光のため、相互銀行取引による一切の債権、手形、小切手債権を被担保債権とする極度額一億円の根抵当権を設定し、被告銀行は同日、本件根抵当権設定登記(一)を経由したこと、次いで、被告日原は、原告が右最終弁済期を遅滞したのちの昭和五九年三月三一日、被告銀行に対し、本件土地建物について、債務者日原観光のため、前同様の債権を被担保債権とする極度額一億一〇〇〇万円の根抵当権を設定し、被告銀行は同年四月二日、本件根抵当権設定登記(二)を経由したとの事実が認められ、右各根抵当権設定当時、被告銀行において被告日原による本件土地建物所有権の取得が貸金債権の担保を目的にした譲渡担保によるものであることを了知していたかどうかは証拠上定かでない。

ところで、譲渡担保は、債権担保の目的で目的物の所有権を移転するものであり、これにより、譲渡担保権者は、債務者が債務の履行を遅滞したときは、目的物を適正に評価された価額で確定的に自己の所有に帰せしめるか又は第三者に売却等をすることによってこれを換価処分し、その評価額又は売却代金をもって自己の債権の弁済にあてることができる権能を取得するに至るもので、譲渡担保権者が被担保債権額(換価に要した相当費用額を含む)を限度として目的物の交換価値を把握していることは抵当権者の場合と同様であるといえるから、譲渡担保権者は、転抵当に関する民法三七五条の類推適用により、譲渡担保設定者の承諾を要しないで、その譲渡担保権をもって他の第三者のため、抵当権(根抵当権を含む)を設定することができると解するのが相当であるから、被告銀行の本件根抵当権設定登記(一)は、被告銀行が被告日原による所有権取得が譲渡担保にすぎないことを知っていたかどうかに関わりなく、少くとも被告日原の有する被担保債権額の範囲内において有効なものであるというべきである。

また、本件根抵当権設定登記(二)は、右のとおり譲渡担保権者である被告日原が、原告佐藤の弁済期経過後に設定したものであり、被告日原の換価処分権能に基づくものであるから、被告銀行において被告日原による所有権取得が譲渡担保にすぎないことを知っていたかどうかに関わりなく、全面的に有効なものというべきである。

のみならず、譲渡担保を設定した債務者は、たとえ弁済期を経過したのちであっても、債権者が目的物を適正に評価してその所有権を自己に帰属させる帰属清算型の譲渡担保においては債権者から債務者に対して目的物の適正評価額が債務の額を上回るときは清算金の支払又はその提供がなされるまでの間、目的物の適正評価額が債務の額を上回らないときにあってはその旨の通知がなされるまでの間、目的物を相当の価格で第三者に売却等をする処分清算型の譲渡担保においては債権者がその処分をするまでの間、債務の全額を弁済して譲渡担保権を消滅させ、目的物の所有権を回復することができるのが原則であるが、帰属清算型の譲渡担保において、債権者が清算金の支払若しくはその提供又は目的物の適正評価額が債務の額を上回らない旨の通知をせず、かつ、債務者も債務の弁済をしないうちに債権者が目的物を第三者に売却等をしたときは、例外的に債務者はその時点で目的物の所有権を回復する権能ひいては目的物の所有権を終局的に失うに至るものと解するのが相当である(最高裁昭和六二年二月一二日判決民集四一巻一号六七頁参照)ところ、被告日原が被告銀行に対して弁済期経過後の昭和五九年三月三一日になした本件根抵当権(二)の設定は、被告日原において本件土地建物所有権取得の確定的意思を表明したものであるから、原告佐藤と被告日原間の本件譲渡担保契約が帰属清算型であるか、処分清算型のものであるかを問わず、右各第三者に対する売却等の処分にあたるものであり、原告佐藤はそのため本件土地建物所有権をその時点で確定的に失ったものであるというべきである。

第二乙事件について

一本件土地建物が原告佐藤の所有であったこと、原告佐藤及び被告勝幸が本件建物に居住して本件土地建物を占有していること、以上の事実はいずれも当事者間に争いがない。

二請求の原因2に対する判断は前記第一、二に説示したとおりであり、これに対する抗弁は前記第一、三に説示したとおりであって、被告日原による本件根抵当権(二)の設定により、原告佐藤が本件土地建物所有権を失い、その反面として被告日原が本件土地建物所有権を確定的に取得したことは前記第一、四に説示したとおりである。

また、被告日原による所有権取得の点は一時措き、原告佐藤が本件譲渡担保の被担保債務の履行を遅滞したことは前叙のとおりであるところ、譲渡担保権者は、債務者が弁済期までに債務の全額を弁済しなかったときには、前記説示の換価処分権能に基づく換価手続の一環として、譲渡担保権者に対抗しうる権原を有しない第三者に対してはもとより、債務者に対しても、目的物の引渡を求めることができるものと解するのが相当である。

したがって、いずれにしても、被告日原に対し対抗しうる占有権原を主張立証しない被告勝幸はもとより、原告佐藤も、被告日原に対し、本件建物から退去して本件土地を明け渡す義務があるといわなければならない。なお、清算金の存在及びその額については主張立証がない。

第三結論

以上によれば、原告佐藤の甲事件請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、被告日原の乙事件請求はいずれも理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を適用し、なお被告日原申立の仮執行の宣言は相当でないと認めこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判官榎本克巳)

別紙物件目録<省略>

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